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地域文化活動

台湾文学セレクション

惑郷の人

郭強生 著 西村正男 訳

四六判/フランス装
334頁
ISBN:9784863331471
価格 2,530円(本体2,300円)
発行日:2018/11/30

未完の日台合作映画に魅入られた少年たちの流転の軌跡

その年、李香蘭が台湾公演に来た。その年、日本は戦争に負けた。
その年、ブルース・リーがこの世を去った。その年、日本は経済大国になった。
その年、彼らはみな17歳だった。

1973年、台湾東部の吉祥鎮に日本から映画のロケ隊がやってきた。撮影のために吉祥戯院の付近がまるで日本統治時代のように姿をかえると、時空のねじれと記憶の逆流が住民の生活リズムに変化をもたらしはじめる。そんななか映画館の看板書きの息子・小羅が生徒役に抜擢されて、幼なじみであるフィルムの運搬屋・阿昌、アイス屋の養女・蘭子、3人の関係がゆらぎはじめる。
2007年、台北にアメリカからアジア映画研究者・健二がおとずれる。戦後台湾映画と日本映画の関係をテーマとする健二の台湾訪問には、もう一つの目的があった……
中国東北地方出身の父と原住民の母をもつ小羅、日系二世の研究者・健二、湾生(台湾生まれの日本人)の映画監督・松尾、そして霊魂となってさまよう台湾人日本兵・敏郎。
映画『多情多恨』に導かれるように、70年の時空を往来して少年たちのもつれた記憶が解き明かされる。
周縁の人生を幽明のあわいに描いた長篇小説。

郭強生(かく きょうせい)John Sheng Kuo
1964年生まれ。台湾大学外文系卒業、アメリカ・ニューヨーク大学で演劇学を専攻し博士号を取得。
東華大学英米文学科教授を経て、現在、台北教育大学言語創作学科教授。小説作品に『夜行之子』『断代』など。本書『惑郷之人』と散文集『何不認真来悲傷』はともに金鼎賞受賞。

西村正男(にしむら まさお)
1969年生まれ。関西学院大学社会学部教授。近年は中国語圏の流行音楽を研究。

「訳者あとがき」より

登場人物の多くは故郷喪失者の性質を帯びている。小羅の父・老羅は故郷の中国東北地方を追われて台湾にやってきた外省人であり、台湾人日本軍兵士の霊も帰るところはない。松尾森の孫でアメリカ生まれの松尾健二も日米のアンデンティティに引き裂かれている。本書の題名『惑郷の人』にあるように、彼らはみな故郷に惑う人なのである。だが、そのようなテーマや題材が個別に描かれているだけではなく、それが台湾の近現代史や日台関係史という大きな背景と関連付けられながら描かれていることが、この小説の興味深いところである。

時代へのレクイエム──日本語版への序  郭強生

第一部 君が代少年

  第一章
  第二章
  第三章
  第四章
  第五章

第二部 多情多恨

  第六章
  第七章
  第八章
  第九章
  第十章

第三部 君への思いを絶たん

  第十一章
  第十二章
  第十三章
  第十四章
  第十五章
  第十六章

訳者あとがき  西村正男